TPPが発行されたことで、関税が撤廃され、野菜とかお肉が安く買える、といった内容でニュースで報じられています。
輸入品が安く入ってくることになれば、競争原理が働くこともあり、そのような状況になることも十分考えられます。
ただ、消費者にとっては助かる状況でも、視点を日本の農家に向けるとそうとばかりもいっていられない状況もあるようです。
この記事で学べること
スマート農業等に関する参考資料
この記事は、主に次の資料に基づき構成しています。
・農業労働力に関する統計 ― 文部科学省
・スマート農業の実現に向けた取組 ― 農林水産省
・未来投資戦略2018 - 内閣府
その他(本文中で明記)
「日本の農業」その現状と課題
スーパーに行けば安く食材が手に入る日本では、普段はさほど農業の事を深く考えないでしょう。強いていえば冷夏や水害等で野菜の価格が高騰した場合などでしょうか。
でも、どうやら問題や課題はたくさんあるようです。この辺は触れ始めたらとんでもなく深くなっていくと思うので、ここでは主な問題点として次の2点に絞り概要を説明していきたいと思います。
- 農業の後継者不足
- TPPによる競争リスク
では、一つずつみていきましょう。
① 農業の後継者不足
農業に従事する人が年々減少しています。
農林水産省の資料によると、2010年に260万人いた農業就業人口が、8年後の2018年現在は175万人まで減少しています。
しかも175万人に占める65歳以上の割合は約70%に及びます。
では、新規で農業に従事した人はどれくらいかというと、2017年は5万5千人でしたが、ここ5年はほぼ横ばいといった感じです。
引用:農業労働力に関する統計 農林水産省
つまり、農業従事者の減少はこれからも続いていくという事です。
このように農業従事者が年々減少していくとどういう問題が起こるでしょうか。
一ついえるのは食料自給率の問題です(日本の食料自給率)。
- 食は国の基盤ですが、食料自給率が下がりすぎると、食を他国に頼ることになります。他国の都合で輸出を停止されたら?極端にいうと他国に生殺与奪権を握られることになる…というある意味国防上の話があります。
- また耕作放棄地が拡大することも問題視されています。
農地(ここでは水田とか)は雨水を貯めておく洪水防止としての機能もあり、地域の安定に寄与している側面があります。そういった部分は今すぐどうこうという問題ではないためイメージがわきにくいですが、ジワジワと忍び寄り、気付いた時には…てということも考えておかなければいけません。
② TPPによる競争リスク
TPPが発行されると、海外から輸入された安い価格の農産物が流通する可能性があり、それによって国内の農産品が打撃を受けるという懸念があります。
ただ一方で影響は限定的という見方もあります。それは国産食品の品質による部分です。
私たち消費者が食品を選ぶ際、ポイントとなるのは”価格”と”品質”です。もちろんどちらに比重を置くかという部分は人によって違いますが、大きなポイントであることには間違いないでしょう。
この人によって違うというのがポイントで、どんなに価格が安くても輸入品より国産ものを好む層は一定割合いるのです。
いずれにしても、アメリカがTPPから離脱した結果、どのような影響があるかはしばらく見ていくしかない部分もありますが、付加価値の高い農産物という部分は、日本の農業の一つの方向性として間違いまいでしょう。
農業を強くするための政府の取り組み
現在、日本政府では「強い農業」を実現するために様々な取り組みを行っています。
未来投資戦略2018
未来投資戦略2018とは、安倍内閣が成長戦略として進めている取組の一つで、AIやIoTを駆使したこれからの社会「Society5.0」により、様々な分野を改革していくとしています。
様々な分野として無人自動運転の推進や健康寿命の延伸と共に、「スマート農業」の実現が謳われています。
未来投資戦略2018の中で、強い農業を実現するための目標が、達成期限として示されています。その一部は以下のとおりです。
いつまで | 取組内容 |
2019年に | 農林水産物・食品の輸出額1兆円を達成する(2017:8,071 億円) |
2023年までに | 全農地面積の8割が担い手によって利用される(2017 年度末:55.2%) |
2025年までに | 農業の担い手のほぼすべてがデータを活用した農業を実践 |
農林水産物・食品の輸出額1兆円達成
「海外のニーズに合わせて」っていうのが前提のうえで、以下のような取組が行われています。
- 生産者、商社、流通業者をマッチングする環境の構築
- 海外の買い手が欲しいものを、欲しい量だけ、欲しい時期に輸出する「グローバル産地」の形成
また、日本産の農林水産物・食品のブランディングを高めるために、「日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO)」という組織が設置されて、戦略的に日本産品のマーケティングを強化できるようプロモーションが進められてます。
出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)「日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO)」
全農地面積の8割が担い手によって利用される
休耕地に対する施策としは、「農地バンク」という取組が行われています。
農地バンクは正式名称を「農地中間管理機構」といい、簡単にいうと農地を貸したい人と借りたい人をマッチングする仕組みで、これにより小口の農地を集約して大規模農家を行うことを可能するというものです。
ただし、今のところ目標のペースより遅れているようで、色んな問題点も指摘されています。目標の8割達成にはより加速度的な対応を行う必要があると政府は認識しています。
農業の担い手のほぼすべてがデータを活用した農業を実践
データ共有の基盤整備 | 「農業データ連携基盤」を本格運用させ、データ連携する範囲を、生産から加工、流通、消費に至るバリューチェーン全体に広げる。 |
先端技術の実装 | ・国、研究機関、民間企業、農業者が一体となって、現場ニーズを踏まえた先端技術の普及を目指す ・ドローンとAIの組み合わせによる農薬散布等 ・自動走行農機等の導入による土地改良事業の推進 ・スマートフォン等を用いた栽培・飼養管理システムの導入 ・農業データ連携基盤を介した、農業者間での生育データの共有 やきめ細かな気象データの活用等による生産性の向上 |
スマート化を推進する経営者の育成・強化 | 先端技術の活用の主体となる経営意識の高い経営者の育成や、将来の農林水産業の担い手である農林水産高校生・大学校生に対し、 先端技術の体験の場を提供するなど、スマート農林水産業を学ぶ機会を充実させる。 |
農業データ連携基盤の仕組み
出典:農業データ連携基盤の構築について 農林水産省技術政策室
実際に「WAGRI」っていうサイトが運用されていて、会員になると育成予測や土壌、気象などに関するAPIを取得することが出来るようになっています。
APIとは簡単にいうと、システム上で共通的に使用できる機能とかデータという意味です。ってことかな。[/chat]
日本再興戦略「攻めの農林水産業の展開と輸出力の強化」
基本的には「未来投資戦略2018」に基づいて色々な施策が動いていますが、同様の取組に日本再興戦略というものもあります。安倍政権の成長戦略として打ち出された政策「日本再興戦略2016」の中で『名目GDP600兆円に向けた官民戦略プロジェクト10』の施策が提起されています。その10の施策を見てみましょう。
名目GDP600兆円に向けた官民戦略プロジェクト10
「1.第4次産業革命(IoT・ビッグデータ・AI・ロボット)」
「2.世界最先端の健康立国へ」
「3.環境・エネルギー制約の克服と投資拡大」
「4.スポーツの成長産業化」
「5.既存住宅流通・リフォーム市場の活性化」
「6.サービス産業の生産性向上」
「7.中堅・中小企業・小規模事業者の革新」
「8.攻めの農林水産業の展開と輸出力の強化」
「9.観光立国」
「10.官民連携による消費マインド喚起策」
8番目に「攻めの農林水産業の展開と輸出力」を目指すと謳われています。
この中で設定されている目標と達成時期は次のとおりです。
いつまで | 取組内容 |
2020年度に | 6次産業市場を10兆円に拡大(2014年度:5.1兆円) |
2020年に | 農林水産物・食品輸出額1兆円を達成 |
2023年までに | 農地の8割を担い手に集約 |
スマート農業の事例
ここからは実際に今現在実施されている”スマート農業”の実例を紹介させていただきます。
GNSS自動操舵システム等の導入による生産コストの削減
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/attach/pdf/smajirei_2018-15.pdf |
《特徴》 自動操舵システムにより経験の浅い従業員や家族もトラクター作業を担うことが可能となり、経営主の負担軽減につながる。また、作業時間自体が短縮されるため、作業するタイミングがあまり天候等に左右されないメリットもある。 |
農薬散布用ドローンの導入による集落単位での水稲共同防除の実践
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/attach/pdf/smajirei_2018-14.pdf |
《特徴》 地域が連携して農薬散布用のドローンを購入、各構成組織から人員を選出し、ドローンのオペレーターを育成。農家の負担軽減につながっている。 |
水管理システムの導入による無農薬米生産の効率化
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/attach/pdf/smajirei_2018-7.pdf |
《特徴》 水田センサーを60筆の水田に設置し、タブレット等の携帯端末から圃場の水位・水温・地温を確認可能。その効果として現場での見回り等を行う必要が低いため自宅から離れた場所(車で10分程度)に圃場がある農業者にとっては、かなりの労働時間の省力化につながっている。(ほ場見回り回数の例:導入前の1/3に減少) |
まとめ
TPPが発行され、今後私たちの生活の中にもその影響というのは、良い面でも、そうでない面でも見えてくると思います。またその影響というのは、消費者であるか、提供者側であるかによって裏表の関係にもなると思います。
今回はその一つの側面である「農業」にスポットをあてて考えてみました。
日本の農業は危ない、将来的に不安…といった声はよく聞こえてくる反面、普段食べ物に困っていない私たちは、問題としてなかなか実感しずらいとこもあります。
TPP発行のこのタイミングで、農業を取り巻く様々なことを調べてみて、確かに問題は存在するけど、将来に向かって前向きな取組も進行していることが分かりました。
日本の食べ物はやっぱりおいしいです。
ちゃんとブランディングを戦略的に行って、知ってもらえれば、稼げる分野になるのも可能だと思いますし、先端技術を使うことで少ない労働力を大きな果実を生むことも可能だと思います。正直現在の事例ではAI化等はまだまだだと思いますが、国、研究機関、民間、農業者が一体となって取り組んだ先、5年後くらいにはどうなっているか楽しみです!